マイクロステップとは、潜在記憶の実力レベルのわずかな学習の積み重ねのことを言います。これまでの研究の成果により、一度見ただけ、聞いただけの感覚レベルの情報が、数ヶ月後まで長期に残り続けることがわかってきました。ほんの数秒見ただけのものをヒトは数ヶ月後も脳内に情報として保持しているのです。 本人にその自覚がなくてもです。

 

 学習において、一度見た問題は確かに脳内に蓄積されているのですが、本人はその自覚がないため、問題に回答することができません。このわずかな学習の積み重ねをマイクロステップと呼んでいます。「人間は忘れる生き物だ」との言説がかねてから語り継がれてきましたが、どうやらそれは間違いだったとするデータがたくさん出てきています。忘れているのではなく思い出せない、わからないだけなのです。 


 マイクロステップ・スタディの生みの親である岡山大学大学院の寺澤孝文 教授は

記憶が長期に残ることの証明として以下のような実験を行なっています


一瞬の記憶がずっと残り続ける新事実


 実験では参加者に"なんの意味のないメロディー"を数十曲聴いてもらい,そのメロディーがどの程度好きか嫌いかの点数をそれぞれつけてもらいます。1回目はこれで終了です。

 

 4ヶ月後,参加者にもう一度集まってもらい,2回目の"なんの意味のないメロディー"を数十曲聴いてその好き嫌いを評定してもらいます。

 

 そして,その直後こう言います。「今からもう一度"なんの意味のないメロディー"を聴いてもらい,直前に聞いたかどうかテストします。」そして,実際にまた"なんの意味のないメロディー"数十曲聴を聴いてもらい,直前に聞いたかどうかを回答してもらいます。

 

 この実験で参加者は3回"なんの意味のないメロディー"を聴くことになりますが,メロディーは毎回違ったパターンとなっています。

 

◀︎実験を整理すると図のようになります。

 つまり,3回目のテストでは,直前に聞いたBリストのメロディーは一切出てこないので,直前に聞いたと回答すると間違いということになります。

 

 ここで,一般的に考えれば,1回聞いただけのAリスト"なんの意味のないメロディー"が4ヶ月間も経った時点で思い出せるはずもなく,3回目のテストの回答はAリストCリストの間に差がないはずです。

 

 しかし,実際にはAリストを直前に聞いたと間違える方が圧倒的に多いのです。このことは対称群を設けた実験や,いくつかパターンを変えた実験,またメロディー以外の感覚情報を使った実験においても同様の結果が得られ,統計的にも有意な差が出ています。

 

 このことから,覚えようとしなくても,本人が自覚していなくても,4ヶ月前に一回見た,聴いたわずかな情報が4ヶ月(少なくとも)もの長期間脳内に残っているということが証明されたのです。

 

 寺澤教授はもともと脳の仕組みを研究していました。そこで導き出された理論を当てはめると,これらのことが説明できることが事前に解ってはいたのですが,実際には寺澤教授本人も信じられないような実験結果だったのです。

技術を教育へ応用


 さらに,また別の実験では5ヶ月前に何回学習をするか(何回単語を目にするか,何回メロディーを聴くか)という回数もその後の知識の定着に影響があることが判明しました。5ヶ月前に何回その情報と出会うかで,差が出ること,また5回以上はあまり効果がないことも同時にわかったのです。

 よく英単語を覚える際に書いたり,唱えたり,様々な方法が紹介されています。もちろん,短期的に翌日のテストでは良い点が取れるかもしれませんが,長期的にみると結局のところ5回以上はあまり効果に差がないということです。

 

 “一回見ただけの記憶が脳内に残り続けている” 忘れているのではなく,思い出せないだけ。触れた回数も影響している。寺澤教授はこの事実を教育へ応用することを考えました。そこで誕生したのが,マイクロステップ・スタディです。

 

 マイクロステップ・スタディでは,一度見ただけの学習がわずかながらも脳内に残るという前提に基づき,一回ごと,全ての学習を記録しています。また,その回数も全てこちらで定義し,一つの学習の効果を取りこぼすことなく記録しています。

最新のデータ解析技術によって描き出されるグラフの真価


 マイクロステップ・スタディは全ての学習のデータを記録しています。例えば,2,000語の英単語を学習するとして,その一つ一つをいつ,どのタイミングで,何回勉強するか。そして,その定着度合いはどの程度か。2,000×2,000n×2,000n...そのデータの数は莫大です。それらのビッグデータを解析して得られるのが図のような実力のグラフです。このグラフは他のe-Learningにはない機能です。というのも,一夜漬けの効果を排除した,本当に今身についている実力を表しているグラフだからです。

 

 あなたも一夜漬けで翌日のテストのために勉強...などという経験をお持ちではないでしょうか?

 翌日のテストは良い結果だったかもしれません。

 ですが,そのとき覚えた知識,今どのくらい思い出せますか??

 

 これまで述べたように,記憶には超長期的に残るものがあることがわかってきました。その長期に残る記憶のことを潜在記憶,一方で,先ほどの一夜漬けの例や,単元ごとのテストなど前日,つい数日前の記憶のことを顕在記憶と分類しています。一昨日の晩御飯は何?という記憶もこの顕在記憶にあたります。

 

 先ほどの一夜漬けで臨んだテストや,学校で単元ごとに行われるテストも顕在記憶を使って問題を解くことになるのに対し,英語での会話や,TOEICGTECなどの英語の実力を測る試験は潜在記憶のレベルで覚えた英語の知識を主に使うことになります。

 では,みなさんが今から学習していくべきは,どちらの記憶レベルの学習でしょうか……? 

 

 マイクロステップ・スタディはこの潜在記憶に着目し,長期に残る潜在記憶のレベルでどれだけの学習できているかを,ビッグデータ解析によって個人ごとに知ることができ,また,学習を続けると潜在記憶レベルで知識が身につく学習法です。

 

 右上図のような実力のグラフは,これまでのe-Learningでは描き出せません。なぜなら,顕在記憶と,潜在記憶どちらで問題を解くことができたかを全く考慮していないからです。

 

 前日にたまたま見た問題も,カンで解けた問題も,本当の実力で解けた問題も,正解は同じ正解として処理されてしまいます。それでは,本当に実力がついた,学力が上がった,成績が良くなったとは言えないのではないでしょうか?

 

 その点,マイクロステップ・スタディでは全ての学習を記録しており,いつどの問題が出題されるか,またいつテストが行われるかをスケジューリングしています。綿密なビッグデータの解析により,マイクロステップ・スタディではこれらの問題をクリアしています。

 

個別最適化学習に必要なものとは?


 個別最適化学習の必要性が叫ばれるようになり、ようやく学校現場でもそのような学習の必要性が認知されるようになってきました。個別最適化学習には、学習の内容を最適化する考え方と、学習の方法を最適化する考えの二つのアプローチがあります。そんな、個別最適化された学びを子ども達に提供する場面において、何が一番重要でしょうか? ━━ それは、子ども達の学習状況を一人一人正確に測定し把握することです。

 学習内容の個別最適化学習を行うためには、まず一人一人の学力を測定し、正確に学習状況を把握しなければなりません。そして、その情報に基づいて、個々に合わせた学習コンテンツを用意します。その子の状況に合わせたその測定が正確なものでなければ、どんなにわかりやすいコンテンツを作っても、無駄な学習を強いることとなってしまい、本当の意味での個別最適化学習とは呼べなくなってしまいます。また、学習方法の個別最適化を行う際にも、適切に学習方法の効果の測定ができなければ、効果がないものを子ども達に強いることにもなりかねません。精度の高い学習情報の測定があって初めて、真の個別最適化学習が実現できます。

子どもたちの意欲・学力を確実に向上させる方法とは...